【読書】トップ1%に上り詰めたいなら、20代は"残業"するな(山口周)

幸せな人生を送りたいなら、キャリア論を考える

重要なのは「自分という船」の船長になる、という気構えを持つことです。

 

社会人一年目だった時、私は途方に暮れていました。

何が正解なのか分からない。何から始めれば良いのか分からない。

大学でも大した勉強をせず、何も準備をしないまま無防備な状態で大企業に就職した私は、社会の手痛い洗礼を受けていました。

 

この本を、かつての私のように、社会人になったばかりで途方に暮れている人に送りたい。そう思います。

 

社会人になると、学ぶべきことは沢山あります。ビジネスマナー、仕事の段取り、WordやExcelの使い方、スーツの着こなし方…例を挙げればキリがありません。

そしてその一つに、ぜひ「キャリア論」、つまり「どういうキャリアを歩むべきか」というテーマも入れて頂きたいです。

これから先、40年以上の働く時間を、悔いのないものにするために。20代という早い時期にこそ、自分のキャリア論について、考えてみるのです。そしてその入門書としてふさわしい一冊として、本書を紹介します。 

トップ1%に上り詰めたいなら、20代は“残業

トップ1%に上り詰めたいなら、20代は“残業"するな

 

 

 

自分の頭で考えられている人は僅かしかいない

重要なのは「自分という船」の船長になる、という気構えを持つことです。(略)

「あの時は、こうするのが普通だった」「先輩や同僚は賛成してくれた」といった理由で、自分の目的地やルートを決めたとして、それで座礁したり沈没したりしたとしても、世間や先輩はその責任をとってくれません。

自分という船の船長になる。こう書くと、そんな事は当たり前だと思う人も多いかもしれません。

しかし、私に言わせれば、世の中のほとんどの人は、「自分という船」の船長の役割を他者にやらせてしまっています。

その他者とは、会社の上司や先輩や肉親といった物理的な人であったり、世間的な常識や自分を縛る価値観などの観念であったりします。

特に20代の若い人たちは、そういった人や価値観に振り回されやすいものです。

私はよく、「これは本当に自分の頭で考えた事なのだろうか?」と不安になってしまう事があります。

テレビのニュースにしても日経新聞にしてもNewPicksにしても、あらかじめプロセスされた情報が多すぎる。読書にしても同じです。あたかも誰かから「こう考えなさい」と暗示を掛けられているような、そんな気分になります。

けれども現代社会は忙しく、時間は希少財です。時間をショートカットするためには、そうしたプロセスされた知識をもとにして、自分なりに思考を組み立てていくしか手段がないのが現状です。

自分の頭で考える。これは簡単なように見えて、実に難しい事なのです。

誤解を招くといけないので、ここで注意を促しておきたいのですが、私は、自分の選択についてのアドバイスを他者に求めることは、自分の判断力を鈍らせることになるのでやめたほうがいいと思っていますが、判断に必要な情報を取得するために他者に意見を求めることは積極的にやったほうが良いと思っています。

船長の例えで考えてみれば、「航路Aと航路Bの、どちらを選べば良いでしょうか?」と聞くことはやめたほうがいいのに対して、航路Aで通過する海域Cについて、気象や流氷等の”判断に必要な情報”を求めることは、大いにやったほうがいい、ということです。

山口さんの語るような、こうした「他者のアドバイスを仰ぎつつ、最後は自分自身で判断する」という知的態度を、私たちも身につける必要があります。それはなぜか。

 

ためしに今の50代以上の方が、20代の新入社員だった事を想像してみて下さい。

彼らが今の会社に新卒入社したのは1990年前後。その時に会社にいた先輩方は、高度経済成長期という右肩上がりの、しかも外部環境変化の少ない時代を生きた人々です。その世代の常識を、あたかも「不変のルール」のごとく教わってきたのが、今の50代以上の人たちなのです。

 

けれども、今の世の中はどうか。

世界情勢はますます不確実性を増し、テクノロジーが私たちを簡単に追い越します。そうした世の中においては、過去に正解だったルートも、未来においては不正解のルートに変わってしまうのです。いとも簡単に。

だからこそ、誰かが提示した「正解」、特に年長者が提示した「正解」を安易に信じてしまうのは危ない。「自分の頭で考える」、その努力を続けていく事が重要なのです。

 

ポータブルスキルを身につける

「自分の頭で考える」。そのスキルを身につけるためには、日々の仕事に真摯に取り組む事が大切です。本当に大切なスキルは、仕事を通してしか身につかないからです。

ただしその際には、「その努力は本当に報われるのか?」という視点を持っておく事が重要です。世の中には「スジの良い仕事」と「スジの悪い仕事」の2つが存在するからです。

では「スジの良い仕事」とは、どんな仕事なのでしょうか?

着眼点は二つだけです。

それは「成長につながるか」と「評価につながるか」です。

ここで言う「成長」というのを、もう少しフォーマルな言葉で表すなら「市場価値」となります。労働市場における、労働市場において、あなたの毎日の労働がどれだけの市場価値を持っているか、という事です。

「成長につながるか」というのは、社外における人材評価。

「評価につながるか」というのは、社内における人材評価。

漫然と仕事をせず、「何のためにこの仕事をしているのか?」という視点を、私たちは常に持っておくべきです。

 

また、スキルを身につける際は、そのスキルの汎用性に注目することが大切です。本当はその会社の中でしか評価されないスキルなのに、「ほかの会社でも評価されるはず」と判断を見誤ると、後々に悲劇がおきます。

日本のさる大手企業とプロジェクトをやった時のことですが、この企業ではA3用紙1枚の資料で会議をやることが通例となっており、グローバルスタンダードとなっているA4横で資料を作成すると、稟議の伺いを立てた役員から「A3じゃないから目に入ってこない」と読んでもくれないというのです。

なんともバカげた風習を根付かせてしまったものですが、まあそういうわけで、何が何でもとにかくA3用紙1枚に資料をまとめなくてはいけない、と事務局の人が役員会議前夜にいつも徹夜しているのを見て、椅子から転げ落ちるほどビックリしたことがあります。(略)

非常に面白いと思ったのは、多すぎる情報をA3用紙1枚にまとめるのならまだしも、少なすぎる情報の場合は、細かいフォントでA3用紙1枚を埋めるだけの情報量が足りずにスペースがスカスカになるわけですが、これはこれで許されず、A3用紙1枚が細かいフォントでびっしりと埋まる、ちょうど良いくらいの情報量までもっていく、という作業に途方もない労力をかけていたことです。

言うまでもなく、こんなスキルはその会社でしか通用しないスキルで、職場が変われば間違いなく不良資産化してしまいます。

 50年働くのが当たり前の時代になりました。

どうせ学ぶなら、すぐ使えなくなるスキルより長持ちするスキル。その会社でしか使えないスキルより、どこの世界へ移っても使えるスキルを学んでいきたいものです。

これは人材業界の用語で「ポータブルスキル」という言葉で表されるものです。これも覚えておいて損はないでしょう。

next.rikunabi.com

 

ポータブルとは、「持ち運びできる」ということ。注意深く会社の中を見渡してみると、その会社の中では重宝されても、一歩社外に飛び出した途端に価値のなくなってしまうスキルが意外と沢山あることに気づきます。

ストレートに聞いてみます。みなさんの会社の、みなさんより20歳上の先輩方は、なぜ転職をせず今の会社に居続けるのでしょうか?愛社精神があるからでしょうか? 

考えてみて下さい。会社への不満は山ほどあるものの、ポータブルスキルを持たないが故に、「今の会社なら部長級の活躍ができるけれど、転職先の会社なら課長級の活躍しかできない」から、そして年収が下がってしまうからではありませんか?

 

持ち運べないスキルばかり習得する事にはリスクがあります。なぜなら会社の寿命がかつてよりも短くなっているからです。会社から放り出された時の「保険」は、常に考えておくべきでしょう。

転職を礼賛している訳ではありません。ただし、もし会社に残り続ける場合でも、「ポータブルスキル」を意識してストックしておけば、それは何かの時に自分の身を助けてくれるかもしれない。リスクヘッジになるのです。

普段仕事を通してスキルを身につける時も、「今自分が身につけているのはポータブルスキルなのか?それとも単に社内スキルなのか?」という目線を持っておく。それだけで5年後10年後の選択肢の幅が変わってきます。

 

「努力は報われる」という幻想を捨て、「思考」にシフトする

残念ですが、どれだけ努力をしても成果に報われない環境が、世の中にはあります。山口さんは新卒入社した電通での仕事の日々をこう語ります。

20代の半ば頃のことですが、一人ではとてもさばけないほどの業務量を任され、連日連夜の深夜残業でも仕事は終わらず、ミスが頻発していたために、精神的に極めて不安定になった時期がありました。

今から考えれば、お粗末な業務フローとバランスを欠いたチーム体制・役割分担がその原因だったのですが、ウブだった当時の私は、これほどまでに仕事が遅く、ミスを連発する自分はビジネスパーソンとして不適応者なのではないかと悩み、いっそパン屋にでも職替えをするべきか? と悩んでいたのです。

(パン屋が楽な仕事かは置いておくとして・・・、)上司も人間です。間違うこともある。受験勉強なら「間違った問題」が出題される事はありませんが、現実の社会は「間違った問題」に溢れています。それを必死で解いても、努力は報われません。

 

「努力は報われる」という考え方を、私たち日本人は好みます。

けれども山口さんは敢えて、その考えを否定します。

しかし私は、努力と怠惰というのは紙一重だと思っています。

これは多少優しい言い方であって、哲学者の芦田宏直先生はもっと直截に「努力とは怠惰である」と指摘した上で、さらに「怠惰の反語は『努力』ではなく『思考』である」と言っています。けだし、名言だと思います。 

大切なのは、その努力が本当に戦略的に意味のあるものなのか、自分の頭で考えるということ。

上司から与えられた問いを鵜呑みにせずに、自分の頭で考えて、自分なりの問いを設定するということなのです。

仕事上の失敗はすべて自分の努力不足にある、という考え方は非常に危険です。ちなみにブラック企業が利用するのもこの固定観念です。彼らは「成功している人はみんな努力している。成果が出ないのはあなたの努力が足りないからだ」といって、人を限界まで努力させようとします。彼らの狙いはシンプルで、それは「考えさせないようにする」こと、これしかありません。彼らにとって怖いのは、「努力しなければ」と焦っている人が、ふと立ち止まって、「本当にこんなことをやっていて未来につながるんだろうか」と考え始めてしまうことです。勇気を持って立ち止まり、自分の生き方について考えてみる。この行為こそが「正しい努力」だと芦田先生は言っているわけです。 

 

 陸上選手として活躍した為末大さんは、報われない努力を続けることの危険性を厳しく戒めています(本書の中でも、為末さんのケースが考察に取り上げられています)。

togetter.com

 

成長意欲のある人ほど、毎日の仕事に意欲的に取り組みます。それ自体は必ずしも間違っていません。

ただしその時に、「努力は報われる」と滅私奉公的に考えるのではなく、「この努力は報われるのか?」と戦略的に考える。そうするだけで、山口周さんが述べたような仕事の落とし穴にはまるリスクを抑える事が可能となります。

 

今いる会社がベストなのか、ゼロベースで再考する

時には「居場所を変える」ことも、トップ1%まで上り詰めるための選択肢となります。

既に社会人になって数年を経た方ならおわかりいただけるとおもいますが、学生に、「自分が生涯を過ごす会社を選べ」と突き付けて合理的な選択をさせる、というのは、難しいのを通り越して無茶と言うべきでしょう。

学生というのは会社を選ぶ目も、自分にどのような仕事がフィットするのかという理解も持ち合わせていないので、社名のかっこよさや世間の評価、給料待遇、会社の立地場所、合コンウケのよさといったごく表面的な理由で会社を決めてしまう傾向があります。

前述した、「怠惰の反語は『努力』ではなく『思考』である」という言葉を思い出してみて下さい。

思考停止にならず、所与の条件を疑ってみること。今いる会社が本当に自分にとってベストなのか、常にその考えをアップデートし続けておく事が重要です。

 

当たり前のことですが、完全情報を持った上で就職活動を行うことは、ほとんど不可能です。学生の時は誰もが皆、学生の時に持っていた情報を駆使して、就職先を決めるしかありませんでした。

しかし、これはなかなか責められません。というのも、学生というのはそもそもそういうものだろうと思うのです。

様々な業界の裏事情に通じている上に産業経済学の素養も駆使して職場選びをしているような学生がいたら、それはそれでちょっとキモチわるい。この子は何か欠けているんじゃないか、と私なんかは思ってしまうでしょう。学生というのは、そういうナイーブさを持っていてそれがまた美しいところでもあると思うのです。

とはいえ、そういうナイーブな感性を持って表面的な情報にもとづいて選んだ会社が、本当に一生を過ごすべき会社なのかというと、これは当然ながら甚だ疑問だ、ということになるわけです。

私自身も転職を経験しています。

転職して正解だったかは、果たして分かりません。そのまま元の会社に残る事が正解だったかもしれない。

しかし、「学生時代に決めた”一生の場所”は、本当に正解なのか?」と、自分で問いを立てて、行動に移せたということ。

そして「自分の人生を自分で決める決意」を持てたのは良いことだったと、自己評価をしています。

 

 まずは読書から始めよう

西加奈子さんの小説『サラバ!』の中には、こんなセリフが登場します。

「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」(西加奈子サラバ!」)

サラバ! 上

サラバ! 上

 

これを山口周さんの言葉で表現するならば、「『自分という船』の船長になる」というメッセージになると思います。

 

自分の人生を、自分の手でコントロールできるというのは、とても素晴らしい事です。

新社会人のみなさんも、ぜひチャレンジしてみて下さい。そのために最も手軽でオススメな方法は読書です。手始めに、まず山口さんの本を買って読んでみて下さい。ある人の考えが本という形で出版されているという事は、その人の考えが、個別の会社を超えて普遍的に通用するポータブルな価値を備えている事の証明でもあります。そうした優れた他人の知的努力を、自分のものにするのです。このブログの中でも、「自分の頭で考える」トレーニングの入門に適した書籍をたくさん紹介しています。