今、辛い想いをしている人へ。読書は「いま、ここ」から抜け出す武器になる。
今、辛い想いをしている人へ。
もし、あなたに直接会うことができたら、わたしで良ければ、たくさん話を聞いてあげたい。
そして最後に、あなたにピッタリの一冊を選んで渡してあげたい。「大丈夫。この本を読めば、きっとあなたの助けになるはず」と。
読書は、武器になる。「いま、ここ」から抜け出す武器になる。
私は色々なブログ記事の中で、よく本を引用しています。
その理由は明確です。読書が「いま、ここ」から抜け出す武器になる事を、あなたに知ってほしいからです。そして実際にその本を読んでみてほしいからです。
かつての私自身が、まさにそうだったから。
社会の厳しさを知らない新入社員
私が読書を始めたのは、社会人一年目の時だった。
いわゆる「大企業」に入社。配属されたのは、ほとんど行った事のないような地方都市だった。
東京生まれ・東京育ち。生活圏内も限られていたし、自分と似たような人としか会ってこなかった。ただひたすらに課外活動に打ち込む、普通の学生生活を送ってきた。
はっきり言えば、社会の厳しさをほとんど知らずに育ってきたようなものだった。
それでも新入社員(特に男性)にありがちな、「仕事、やってやるぞ!」という、焦点の定まらない漠然としたやる気のようなものは持っていた。そして初めて東京から出て新しい社会人生活をスタートさせる事に、昂揚した気持ちさえ感じていた。
そんな自分が、社会人生活の厳しい現実を知るまでに、そう時間は掛からなかった。
仕事のできない自分が許せない
働き始めたころ、自分は、とにかくミスが多かった。
数字を間違える。Excelの関数が分からない。一度聞いたことを忘れてしまう。
「あれ、俺ってこんなに仕事できなかったのか・・・?」
もっとテキパキと仕事をこなしていく予定だったのに。あるべき姿と自分の無力さとのギャップが、悔しかった。何度もミスをして、その度に周りにフォローしてもらう、その繰り返し。当時のグループの諸先輩方には、ずいぶん迷惑をかけたと思う。
加えて、上司とのそりが、とにかく合わなかった。
この点については、うまく書くのが難しいのだけど、やはり人には相性がある。自分も、特に目上の人に関しては、昔からずっと尊敬できる人と尊敬できない人の区分けがかなりハッキリしているタイプだったし、何かと口で損するタイプだった。
今考えてみると、その時の上司も、そのさらに上の上司からのプレッシャーに晒されていて、大変だったのだと思う。自分ももう少し上手く立ち回れば良かったと反省している。
(私の1年後、同じ部署に入ってきた後輩は、その環境に耐えられずに会社を長期に休んでしまった)
出口の見えないトンネル
入社一年目の時は、ほんとうに良い思い出がない。仕事のスキルが、一向に上がらなかったからだ。
新しい仕事がどんどん増えてくる。マルチタスクに、脳の処理スピードが追いつかない。なのに残業規制もあるから、時間内に仕事が終わらない。焦れば焦るほどミスも増えていく。タイムカードを誤魔化すのは日常茶飯事になった。
上司との仲は、悪くなる一方だった。
決定的だったのは、少し話をぼかすけれど、コンプライアンスに抵触するような事を命じられた事だった。
自分は一貫して反発し続けたのだけれど、それによって上司はますます自分への当たりを強めていった。周囲の人は大分自分のことを心配してくれたのだけれども、状況は改善しなかった。
「あれ、自分、この会社で何をしたかったんだっけ・・・?」
毎日家に帰るたびに、途方に暮れていた。
普通の人なら、こういう時に家族や友人に相談するのかもしれない。
けれど自分がいるのは東京ではなく、縁もゆかりもない地方都市。昔からの友人は一人もいない環境だったので、誰にも相談する事ができなかった。何人かの会社の先輩方は、ご自身も新入社員で辛かった時の事を覚えているから、事あるごとに心配してくれたけれど、それでも具体的に何かを変えられた訳ではなかった。変われない自分が、辛かった。
もう何も見たくない。
意気揚々と入社した4月の時の気持ちは、もうどこか遠くへ消えていた。その時の自分の頭に浮かんできたのは、「逃げ出したい」という思いだった。そして毎日の仕事を満足にこなせない事への悔しさ、やるせなさで頭がいっぱいだった。
物語の世界に逃げてもいい
そんな時に、たまたま手に取った本がある。
池井戸潤さんの小説『オレたちバブル入行組』。
ドラマ『半沢直樹』の原作だ。
秘密めいた指示にはわけがあった。協定破りだ。
産業中央銀行から電話がかかってきたのは、八月二十日の午後九時過ぎだった。相手は就職希望者用の資料請求のハガキをくれたことへの礼を述べ、まだ当行に興味があるかと尋ねてきた。「はい」とこたえると、「明日、午後二時。池袋支店の前で『サンデー毎朝』を持って立ってる者に声をかけてください。このことは内密に」というスパイ小説もどきの指示を残して用件を終えたのである。
「サンデー毎朝ねえ」
受話器をゆっくりと戻しながらつぶやいた半沢直樹はそれでも、内心から湧き上がってきた高ぶりをどうすることもできなかった。(池井戸潤『オレたちバブル入行組 (文春文庫)』より)
一瞬で、引き込まれた。
小説を読んでいる間だけは、小説の世界に入り込むことができる。半沢直樹が、次々とトラブルを乗り越えていく姿は、その時仕事で悩んでいた自分に、とても眩しく映った。 東京へ帰省する列車の中で、あっという間に読み終えたのを覚えている。
「そう嘆くな、渡真利」
半沢は言った。「そのうちオレが、その負け分を取り戻してやる」
「ほざけ。いつまでも夢を見てろよ」
渡真利は皮肉っぽくいう。「夢と思っていたものが、いつのまにか惨めな現実にすり替わる。そういう気持ち、お前にはわからんだろう」
「そんなことないさ」
半沢は否定した。「夢を見続けるってのは、実は途轍もなく難しいことなんだよ。その難しさを知っている者だけが、夢を見続けることができる。そういうことなんじゃないのか」(池井戸潤『オレたちバブル入行組 (文春文庫)』より)
どうしてあの時、自分は物語に心惹かれたのか。
今なら分かる。それは自分が、仕事への「属し方」を考えるために必要だったからだ。小説家の村上春樹さんは、物語の存在意義をこう説明する。
僕らは何かに属していないと、うまく生きていくことができません。僕らはもちろん家族に属し、社会に属し、今という時代に属しているわけなんですが、それだけでは足りません。その「属し方」が大事なのです。その属し方を納得するために、物語が必要になってきます。物語は僕らがどのようにしてそのようなものに属しているか、なぜ属さなくてはいけないかということを、意識下でありありと疑似体験させます。そして他者との共感という作用を通して、結合部分の軋轢を緩和します。そのようにして、僕らは自分の今あるポジションに納得していけるわけです(あるいは納得できない人は納得できるポジションに向けて進んでいきます)。それが物語の持つ大事な機能のひとつであると、僕は基本的に考えています。(村上春樹『村上さんのところ』より)
数年前に、鎌倉市図書館のツイートが話題になった。
ツイートの日付は2015年8月26日。子供の自殺が、9月1日に最多になるというデータを元にしたツイートだった。
誰だって、常に逃げずにいれる訳ではない。誰もが最初から強さを持っている訳ではない。
そんな時は、読書が私たちの「一時避難所」にして「充電所」になる。仕事から逃げ出せず、近くに相談できる人もいないその時の自分にとっては、小説という物語の中が唯一の「逃げ込める」場所だった。
もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほど辛い子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所へ図書館も思い出してね。(2015年8月26日)
もちろん、現実と物語は区別する必要がある。作家の佐藤優さんはドラマの「半沢直樹」について、「現実の世界であんなことやったら即破滅ですよ」と語っている。その通りだと思う。
けれどその時の自分にとっては、フィクションは現実と異なるからこそ意味があった。読書という物語の世界へ逃げ込めたからこそ、あの時ギリギリのところで自分は自分を保てたのだと思う。
なぜ読書である必要があったのか
そうして少しずつ、書店に通うようになった。
まず読み始めたのは、仕事術の本だった。
Excelが苦手なのを克服したい。仕事のミスが多く、スピードが遅いのを克服したい。苦手な上司とのコミュニケーションを取れるようになりたい。
自分にあったテーマのものを、書店の「自己啓発」のコーナーから1冊1冊探していく。少し立ち読みをして、ピンと来た文章を2つ3つ見つけた本は買うようにした。
それを実践していくと、小さいけれど、すぐに効果が出た。
なるほど、こうすれば良いのか。周囲の先輩からアドバイスを得られなくても、本を読んで独学していけば良い。ネットで得られた知識よりも、ずっと効果があった。
少しずつコツを掴んでいく。「自分の抱えるたいていの悩みは、既に同じように悩んでいる人が大勢いて、その答えは書店のどこかにもう置かれてあるのだ」と思った。だとすれば自分のするべきことは、困った時に書店に駆け込み、それを探すことだけだ。
「もっと本格的に読書をしてみたい」。
そう思って次に手に取ったのは、読書についての本だった。
野球に正しい素振りのフォームがあるように、楽器に正しい姿勢のフォームがあるように、読書にも正しいフォームがあるはずだ。
けれども会社の先輩に聞いても、日常的に読書をしてそうな人は見当たらなかった。だから自分はその答えを本に求めた。書店で「読書術」のコーナーを探すと、目ぼしい本がいくつか見つかった。3-4冊ほど大人買いした。
なぜ、本である必要があったのか。
作家で元外交官の佐藤優さんは、池上彰さんとの共著の中でこう語っている。
なぜ書籍を読むことが大切かというと、書籍は基本的に、体系的にひとつのまとまった世界として内容を提示しようとしているからです。そのうえ、新聞や雑誌と同様、「編集」「校閲」というフィルターが書籍にはきちんと機能しています。土台となる基礎知識を身につけていくには、「記述の信頼度」と「体系的」かどうかの2つが重要で、それに最も適しているのが書籍です。(池上彰・佐藤優『僕らが毎日やっている最強の読み方』より)
「体系的」とは、つまり誰かが私たちのために知識をあらかじめ整理してくれている、ということ。
インターネットやSNSの記事に書いてあることは、正解の「カケラ」でしかない。けれど世の中にはその小さな正解の「カケラ」を、書籍という「大きな樹木」へ育てていく才能を持った人たちがいる。
そんな才能溢れる人たちのことを「すごい」と、この時自分は思った。辛い想いをしている最中だからこそ、心からそう思った。読書をすれば、「いま、ここ」から離れて、その人たちに会いに行ける。そんな高揚感があった。
・・・
もし、あなたが「いま、ここ」から抜け出したいのなら、行動を起こすしかない。
そして行動を起こすためには「地図」が必要だ。目的地と現在地、そして正しいルートを知る必要がある。
試しにインターネットで検索してみようか。けれどインターネットで得られるのは、あくまで正解の「カケラ」でしかない事に注意してほしい。それはこのブログも例外ではない。本当に大切な地図は、本の中でしか手に入らない。
だから自分は、インターネット上のブログ記事ではあるけれど、自分が読んで良かったと思う本を発信している。ブログは体系知にはなりえないけれど、体系知の入り口にはなってくれる。
このブログの中で紹介している本は全て、私が「いま、ここ」から抜け出すための地図として実際に役に立った良書ばかりだ。
あなたも良かったら、騙されたと思って、ぜひ読んでみてほしい。
「真理はあなたを自由にする」
それからと言うもの、とにかく貪るように読書を積み重ねた。
身の回りに相談する人がいなくても、構わない。読書をすれば、その本の向こう側にいる人生の先輩たちが、いつでも自分に大切なことを教えてくれた。まるで2人で居酒屋ののれんをくぐって飲みに行き、自分だけのための特別レッスンをしてもらうかのように。
世界を知り、自然を知り、人を知る。すると、世の理が見えてきます。(池上彰『池上彰の教養のススメ』より)
重要なのは「自分という船」の船長になる、という気構えを持つことです。
そんなことは当たり前じゃないか、と思うかもしれません。
しかし、私に言わせれば、世の中のほとんどの人は、「自分という船」の船長の役割を他者にやらせてしまっています。
その他者とは、会社の上司や先輩や肉親といった物理的な人であったり、世間的な常識や自分を縛る価値観などの観念であったりします。
特に20代の若い人たちは、そういった人や価値観に振り回されやすいのです。(山口周『トップ1%に上り詰めたいなら、20代は”残業”するな』より)
人生にはつらいことが多い。悩みもたくさんある。こういうとき役に立つのが、知恵のある人に相談することだ。しかし、周囲にそのような人がいない場合は、歴史上の偉人に相談するのがいい。あるいは、古典から学びとってもいい。(佐藤優『佐藤優 選 ― 自分を動かす名言』より)
先日、ある人に、「山崎さんにとって人生って何ですか?」と質問されました。
「私にとって人生とは『賭』です」と、即答しました。
筆者は、長年、商社や金融機関、シンクタンクなどでサラリーマンをして来ました。近年は経済評論家を兼業していますが、ファンドマネージャーのような仕事でも(運用成績は地味ですが常に良好でした)、それぞれの会社のビジネスでも(12回転職しましたが、今のところ成功でも失敗でもありません)、経済評論家の仕事にあってもですが、自分の直面する課題が、「どのような仕組みで動いているのか」を理解することに常に興味を持ちました。やがて、「人生」そのものが最も興味深いゲームであると気づき、人生はどのような仕組みになっているのだろうか、人生というゲームを解く一般的な方法はあるのだろうかということに関心を持つようになりました。(山崎元『仕事とお金で迷っている私をホンネでズバッと斬ってください』より)
さあ、僕の話はもうたくさんだ。
あなた自身の「ゼロからイチ」を見せてほしい。(略)
僕はこれから、自分のやりたい仕事だけをやり、自分の進みたい道を全力で突っ走っていく。そしてもし、僕の進む道とあなたの進む道が交差するときが訪れたら、それほどうれしいことはない。そのときは一緒に、仲間として進もう。(堀江貴文『ゼロ ─なにもない自分に小さなイチを足していく─』より)
私は、強い者が正しいか、正しい者が強くならないと世の中は救われないと思っていますが、日々の仕事の中で悩みながらも、大切な人たちのために頑張っている人たちに強くなってほしいと思います。(塩野誠・佐々木紀彦『ポスト平成のキャリア戦略 (NewsPicks Book)』より)
仕事に悩み、しかも相談相手もいなかった自分は「正解」に飢えていた。
加えて不本意な現状に対する焦りもあったので、自分でも驚くほどのスピードで読書を進めることができた。まるで渇いた土に水が浸み込んでいくように、さまざまな知識や「ものの見方」を吸収していった。
本を読めば読むほど、 自分の心が自由になっていく感覚があった。リベラル・アーツ(教養)の「リベラル」とは、「自由である」ということ。「真理はあなたを自由にする」という新約聖書の言葉が由来だ。
仕事で壁にぶつかった時は、本を読んで考えた。すぐには結果は出ない。成長には踊り場がある。でも少しずつ、前に進んでいる手応えは感じていた。今度はもう逃げない。考えろ、考えろ、考えろ ──。
★★★
そうして、今。自分はここまで何とかやってくる事ができました。
かつて新入社員だった時の苦しみは、ある程度乗り越えられたと思っています。
もちろん今でも悩みは尽きません。もっと良い仕事ができるようになりたいという気持ちは、変わらず持っています。
けれども、今の自分があの時と違うのは、何百冊もの読書で培った知識を持っていること。困った時はいつでも頭の中でその著者の人たちに気軽に相談できるような、そんな感覚を持っています。だからこそ、毎日怖がらずに新しい一歩を踏み出すことができる。
いま私は、かつての自分を救うために、ブログを書いています。
あなたはいま、何に悩んでいるのでしょうか。
それは仕事の悩みだけじゃなく、恋愛や家庭の話かもしれないし、勉強の話かもしれないし、お金の心配かもしれないし、学校や職場のいじめの話かもしれません。
私はこれからも、たくさん読書をしていきます。あなたも一緒に、本を読んでみませんか。
あなたが今の自分に、今の環境に納得していないのなら。読書をしていくと、なりたい自分に少しずつ近づけますよ、と私は伝えたいです。読書は、「いま、ここ」から抜け出す武器になる。