【読書】読書の技法(佐藤優)
知の巨人に学ぶ「時間を圧縮する読書術」
なぜ、読書術が知の技法のいちばん初めに位置付けられなくてはならないのだろうか。
それは、人間が死を運命づけられている存在だからだ。そのために、時間が人間にとって最大の制約条件になる。
率直に言って、上級者向けの本だと思います。
初学者には読みやすい本ではありません。しかし、現段階である程度の読書の量を積み上げていて、「それをさらにブラッシュアップさせたい!」と意欲のある方には非常におすすめできる本です。
限られた時間で、どのように読書すれば、いちばん知識が身につくか。佐藤優さんのテクニックを学べるからです。
現在52歳の筆者は、そろそろ人生の残り時間が気になりはじめている。どんなに努力しても、知りたいことの大部分について、諦めなくてはならない。しかし、そう簡単に諦めたくない。そのときに役に立つのが読書だ。他人の経験、知的努力を、読書によって自分のものにするのだ。
佐藤優さんほど、知的生産性の高い方はそういないでしょう。
外務省時代も、他の外務省員の追随を許さない活躍を見せ、作家になってからも驚異的なスピードで執筆活動を続けています。そのベースにあるのが、読書を通して培われた博識です。
どのようにすれば、最も効率良く知識を身につけることができるのか。知の巨人のテクニックから学ぶことは多いはずです。
また、本書の中では、「読書と併用して、大学受験の参考書を用いるのが、知識を身につける近道だ!」と語られています。
私も実際にいくつかの方法を試してみましたが、確実に、他の本を読むスピードや理解度が向上したという実感があります。気になった方はぜひ、試してみていただきたいです。
読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2012/07/27
- メディア: 単行本
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- 知の巨人に学ぶ「時間を圧縮する読書術」
- 速読と熟読を使い分ける
- 完璧主義を捨て、時間を短縮化する
- 読書ノートに、過度のこだわりは禁物
- 社会人のやり直し受験勉強 ─ 知ったかぶりをしない読書術・勉強術 ─
速読と熟読を使い分ける
数ある本の中から、真に読むに価する本を選び出す作業の過程で速読術が必要とされるのだ。速読の第一の目的は、読まなくてもよい本を外にはじき出すことである。
「忙しくすぎて、読書なんてしている時間がない!」
そう思うビジネスパーソンは少なくないはずです。そこで大切になってくるのが、「速読→熟読」という読書の順番です。
まずはじめに速読をする。そして気になった本だけ、さらに何度も熟読をする事で、理解を深めていく。これが佐藤流の読書術です。
本書の中では、速読と熟読、それぞれの「技法」が余すところなく紹介されています。
完璧主義を捨て、時間を短縮化する
佐藤さん自身が、外務省の激務を潜り抜ける中で、新聞・公電・機密文書の「速読」を繰り返してきたという過去があります。
忙しくて優秀なビジネスパーソンは、とにかく時間がない。だからこそ大切なのは、時間を大切にする読書術を身につけることだと佐藤さんは語ります。
「時間は有限であり希少財である」という大原則を忘れてはいけない。速読はあくまで熟読する本を精査するための手段にすぎず、熟読できる本の数が限られてるからこそ必要となるものだ。速読が熟読よりも効果を挙げることは絶対にない。
その意味では、「もう二度と読まない」という心構えでのぞむことが大切だとも言える。そうした気持ちで取り組まないと、必要な情報が目に飛び込んでこないし、頭にも残らない。いい加減な気持ちで何回も繰り返してしまうと、結局、熟読したのと同じだけの時間がかかってしまうことになる。
全ての本を熟読する事はできません。だからこそ大切なのは、完璧主義を捨てること。「なぜこの本を読むのか?」という読書の目的意識を明確にする事が重要になると、佐藤優さんは語ります。
たとえば、藤原正彦『国家の品格』(新潮新書)を読む場合に、「藤原氏のレトリックから学ぶ」という問題意識を持つ場合と、「同書の論理構成とウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』(岩波文庫)とが類似している部分を調べる」という問題意識を持つ場合とでは、着目する箇所が自から異なってくる。
この着眼点が面白い。笑。さすが佐藤優さんです。
優れた本ほど、沢山の視点から示唆を抽出する事が可能です。それは良書の証拠ですが、かといって漫然と読書してはならない。その本を読む前に、「その本から何を学び取るか」という目的意識を持つ事で、時間を圧縮する事が可能となります。
読書ノートに、過度のこだわりは禁物
読書をした後に、必要に応じて「読書ノート」を作ります。その本から得られた示唆や自分なりの考察を、記憶が薄れない内に文章の形に残しておくのです。
その時にいちばん大切なのは、「続けること」。ノート作りを習慣にするためには、短い時間で負荷を掛けずに作業を終わらせることも大切だと言うのです。
読書ノートを作る最大のポイントは、時間をかけすぎないことだ。30分なら30分、1時間なら1時間と自分で時間を決め、それ以上、時間をかけないようにする。
時間を制限することで、抜き書きできる箇所はおのずと限られてくる。30分で書けるのは、おそらく600字程度のはずである(丁寧にかけば400字詰め原稿用紙で2枚はかけない)。どの箇所を取捨選択するかも、記憶への定着に大きく寄与する。
大切なのは、正確な形でデータを引き出せることと、積み重ねた知識を定着させることで、完璧なノートを作ることではない。
意識の高いビジネスパーソンほど、意気込み過ぎて立派な読書ノートを作ろうとしてしまい、結果として努力が続かなくなってしまう事があります。
恐らく佐藤優さんほど知的好奇心の強い人であれば、一冊の本について沢山メモを残したい事はあるはずです。
それでも、敢えてその知的好奇心を抑えて、考察するべき箇所を「選択と集中」する。それによって、時間を最大限に活かした知的生産術が可能となるのでしょう。
社会人のやり直し受験勉強 ─ 知ったかぶりをしない読書術・勉強術 ─
なお、半年経ってまったく読書力が向上しない場合も、「自分は記憶力がよくない」などと諦める必要はない。おそらくそうした読者は、背伸びをしすぎているのだ。
たとえば高校段階での数学に不安があり、行列、数列、微分法、積分法がまったくできないのに、近代経済学や統計学の知識を身につけようとしても、無理である。その際は数学の基礎力をつけて再チャレンジするしか、知識を着実に身につける道はない。
時間を圧縮するためには、読書の生産性、つまり「本から学習するスピード」を最大化する必要があります。
同じ時間でも、沢山の物事を学とれる人と、そうではない人がいる。その差を埋めるために、「受験参考書を活用せよ!」と佐藤優さんは語ります。
急がば回れ。本格的な読書の前に、受験参考書をさらっと読むだけで、その後の読書の効率が上がっていくと言うのです。私自身も、本書で紹介されている方法をいくつか試してみましたが、確実に効果はありました。
「受験勉強が現実の社会生活の役に立たない」という認識は間違っている。社会人が大学受験のレベルで必要とされる知識を消化できていないため、記憶に定着していないことが問題なのであって、受験勉強の内容は、いずれも社会人になってからも役に立つものだ。(略)
あのとき勉強した知識も、仕事や人生の役に立てるために再活用するという意欲を持ち、正しい方法論、すなわちより高度な専門知識を身につけるために高校レベルの基礎知識が不可欠であるとの認識を持って、再度、教科書と受験参考書をひもとけば、その知識は確実に生きた知に転化する。
確かに、そもそも受験勉強で学ぶ内容とは、大学の教員側から、「うちの大学で学問を学んでいきたいのなら、これくらいの事は知っていて下さいね」というミニマム・リクワイアメント(最低限の基準)を表すもの。
経済学にしろ、会計・統計の知識にしろ、高校までの学習内容が学問の基礎になっている。理系の各研究にしても、数学や物理・化学などの知識が前提となって、その上に知識を積み上げる形になると思います。だからこそ、大学受験の参考書を通して、基礎知識を学び直す意味があるのです。
そして佐藤優さんは、「知ったかぶりをせず、高校の教科書から学び直しをするだけで、知識の吸収スピードが飛躍的に高まりますよ」と語ります。少し長いですが、そのまま引用します。
そうやって基礎知識をつけたつもりでも読書力が向上しない場合、自分の基礎知識のどこに欠落があるのかをきちんと調べることだ。そのときに重要なのは、高校レベルの知識に関して自分にどのような欠損があるかを客観的に認識することだ。
学校秀才型だったビジネスパーソンほど、自らに高校レベルでの学力の欠損があることを認めたがらない。優等生としての「プライドの檻」から抜け出すことができないため、高校レベルの数学や英語が消化できていないという疑念を持つことを心理的に回避する。恥ずかしいので、誰にも尋ねることができない。特に東大、京大、早大、慶大など、偏差値が高い大学の卒業生にその傾向が強い。
しかし、現在の教育制度では、国家公務員Ⅰ種試験や司法試験の合格者でも、ほぼ例外なく学力の欠損がある。ここで特に重要なのが数学と英語だ。
数学も英語も、基礎学力がついていないと、どれだけ努力を費やしても能力が向上しない。特に私大文科系の出身者の場合、数学については中学段階での知識の欠損がある場合も多い。中学、高校の数学については、教材も整っているし、最近では社会人向けのすぐれた教科書も刊行されている。半年から1年で欠損を埋めることができるので、その作業に着手することを強くすすめる。
現実を虚心坦懐に認め、自らの欠損を早く埋めた者が最終的に得をする。
この言葉にドキッとした人は少なくないのではないでしょうか。
私もその一人です。笑
佐藤優さんは、外務省のエリート集団の中に身を置き、長年に渡り、キャリア・ノンキャリアを問わず後輩育成に尽力してきました。職業作家に身を転じてからも、著書のテーマに関連した勉強会や講演会を開き、読者との対話を重ねています。
その豊富な指導経験から、「プライドは不要。基礎固めをした者が長期的に実力を伸ばしていく!」とアドバイス。沢山のエリートの成長を見てきた佐藤優さんの言う事だからこそ、説得力があります。