【読書】読書を仕事につなげる技術(山口周)

読書のスタートは「読書についての本」から

本書の目的は、「読書はそれなりにしているのに、読書で得られた知識や感性を、うまく仕事に活かせていないなあ」と感じている人に、「読書を仕事につなげる」技術について、筆者がこれまでに実践してきたことをお伝えすることです。

 

ビジネスパーソンが読むべき本、1冊目は間違いなくこの本です。

本の選び方や、読む時の注意点、そして仕事への活かし方について。読書の方法論が、初めての人にもやさしく、しかし高度な内容を交えて解説されています。

 

社会人になると、誰もが皆、「自分は知らないことばかりだな」と感じるはずです。

より良い仕事をするために。より良い働き方に近づくために。読書はそのための知恵を授けてくれます。そしてそれは、今日からすぐにでも始められるのです。山口さんはまえがきの中で、進化論で有名なダーウィンのこんな言葉を記しています。

思うにわたしは、価値あることはすべて独学を通じて学んだと思う。

もし皆さんの身の回りに仕事のアドバイスをくれる人がいなくても、気にしなくて大丈夫です。読書を通じて独学するということ。それは今ここにいる自分を離れて、「自分よりもっとすごい人たち」に会って話しに行けるような、そんな贅沢な時間を味わえるものなのです。

 

 

 

読書を仕事につなげるなら、ビジネス書も教養書も両方読む

山口さんはまず、私たちは「2種類の本」を読む必要があると語ります。

筆者は、ビジネスパーソンが継続的に高い知的生産性を上げるには、2種類の読書が必要だろうと考えています。

それはビジネス書の名著をしっかり読む、いわばビジネスパーソンとしての基礎体力をつくるための読書と、リベラルアーツ=教養に関連する本を読む、いわばビジネスパーソンとしての個性を形成するための読書の2種類です。

ビジネス書と、教養書。この2つのジャンルを読むことが大切なのです。

この本のタイトルには「仕事につなげる技術」とありますから、そこで「教養書が大切だ」と言われても、少しピンと来ないかもしれません。

しかし山口さんは、コンサルタントという「ビジネスのプロ」です。ビジネスの現場においても、教養書を読むことで培った知識が役に立つ、と語ります。

ビジネス書の名著を読むことはもちろん必要ですが、それで十分というわけではありません。ビジネス書の名著はいわば「規定演技」のようなもので、これを知らなければ及第できないわけですが、知っていたからといって、他人から抜きん出ることは難しい。特に、レベルの高い集団になればなるほど、こういったビジネス書の知識は「知っていて当たり前」になりますから、差別化の源泉にはなりにくいでしょう。

そこで、求められるのがリベラルアーツ=教養に関連する知識です。これが、いわば「自由演技」となり、ビジネスに関連する知識と組み合わさることで「その人らしい知的成果物」につながることになります。

「基礎を抑えた上で、応用問題にも対処できるスキルを身につけよう」という事ですね。そして教養書を読む事で、ビジネスにおける応用問題を解決するスキルを身につける事ができるというのが、山口さんの主張です(これについては後ほど述べます)。

 

ビジネス書を読めば人生設計を再構築できる

「なぜビジネス書を読むのか?」

そう聞かれたら、大半の人は「仕事で役に立つから」と答えるはずです。

しかし山口さんは、「ビジネス書を読むメリットはそれだけではない」と語ります。ビジネス書を読む事で、今後自分がどういう仕事をしていけば良いのかという事まで分かるようになる、というのです。

ここで問題になるのが、産業の中長期的な収益性・成長性です。キャリアは数十年と長い時間になるので、「いま、ここ」でどうかというより、少なくともあと20年くらいの時間軸で考えた場合にどうなのかということを考える必要があります。

そして、経営戦略論の基本やファイナンスを学べば、どういった産業が中長期的に衰退するのか、あるいは成長するのかについて、ある程度の嗅覚を持つことができるようになります。当たり前のことですが、中長期的に収益性・成長性が停滞するような業界に自分のキャリアをかけるべきではないでしょう。もし自分が、中長期的に収益性・成長性が望めないような産業の会社に就職してしまったのであれば、よほどその仕事が好きでもない限り、自分のキャリア、人生の戦略について考えなおしたほうがよいでしょう。

具体例を見てみましょう。

山口さんが新卒で入社したのは、「電通」。押しも押されぬ名門企業です。

20代前半の頃、 筆者がいつも考えていたのは「なぜ電通の給料はこんなにも高いのか?」ということでした。(略)

そんなとき、、経営戦略論の本を読んでいて「あ、そうか」とわかったことがあります。それは、モノの価値というものはモノの機能とか性質で決まるのではなく、そのモノの「希少性」によって決まるということでした。

どんなに役に立つモノ素敵なモノであっても、誰もが提供できるモノには高い値段がつかない。一方で、それほど役に立たないモノであっても、起床なモノには高い値段がつく。これは経済学を学んでいる人であればごく基本的なことですが、大学で哲学と美術史をやっていた筆者にとってはとても新鮮な考え方だったのです。

そしてここからが凄い。読書を通して得た知識をもとに、自分のキャリアの進む方向性を大胆にシフトするのです。

希少なモノを売っている会社の給料は高くなるし、誰でも提供なモノを売っている会社の給料は下がる。これが電通の給料が高い理由なんだということがわかったわけですが、同時に電通の給料は今後確実に下がっていくだろうということもまた、わかりました。

当時の電通が押さえていた希少な売り物というのは「大衆の注目=アテンション」でした。テレビや新聞といったマスメディアの広告枠を押さえることで、実質的に「大衆の注目」という希少な資源を押さえ、それを高値で卸売りする、というのが電通のビジネスです。

ところが、1990年代の後半になって急激にインターネットが普及し始めます。こうなってくると、「大衆の注目」はそれまでのメディアから新しいメディアにシフトしていくことになります。そうするとこの会社のこの待遇はいまがピークで、ここから先は下がるばかりだろうなと考えて電通を退社したのが2000年のことでした。ほぼ同じ時期にネットバブルが崩壊したこともあって、同僚の多くからは「お前は間違っている。必ず後悔することになるだろう」と言われましたが、おかげさまで後悔することもなく、広告業界の報酬水準はその後下がり続けています。

筆者が電通を辞めようと思った最大の理由は、経営戦略論を学んだことで電通の収益性が今後大きく悪化するだろうと思ったことにあります。経営学の勉強が仕事の成果だけでなく、自分の「人生の戦略」を練る上でも有効なのだということがこれでイメージできたでしょうか。

山口さんが電通を辞めたのが、2000年のこと。

そしてYoutubeが創設されたのが2005年、初代 iPhoneが発売されたのが2007年です。確かに、既存のメディアから新しいメディアへ、「アテンションのシフト」が地殻変動のように起きている。そう考えると、山口さんの先見の明には脱帽せざるを得ません。

とはいえ、私たちにも同じことができない訳ではない。山口さんがしていたのは、あくまで読書で得た知識のレンズを通して、時代の流れ・大局観を緩やかに予想していくというものであり、「Youtube」や「iPhone」という具体的な商品まで事細かに予測していた訳ではないからです。

しかし、そうした大局観を持つだけでも、山口さんのようにキャリアを大きく変える決断を、思い切ってする事が可能となる。そう考えると、何だか自分も同じように読書をして、自分の人生の進む道を考えてみたい気持ちになりませんか?

 

教養書を読むことで「抽象化」のスキルを身につける

役に立つのはビジネス書だけではありません。教養書を読むことも、より良い仕事をすることにつながるのです。

年齢が上がれば上がるほど、一般的に職位も上がり、それに応じて難易度の高い意思決定、これまでに経験のない問題に向き合うことが多くなります。また、部下の数も増えていくでしょう。このような「仕事環境の変化」が突きつける難問に対して、ビジネス書で得られる「知識」はほとんど役に立たないというのが筆者の印象です。

こういった難問については、むしろ教養書の読書を通じて得られる「人間の性」や「組織や社会の特質」についての示唆が大きなヒントになるはずです。

ビジネス書を読むのは必須だが、年次があがるにつれて、それだけでは対応できない事が増えてくる、という訳ですね。だからこそ教養書を読んでおくことも大切なのです。

では、教養書をどのように読めば、仕事に活かせる知識が得られるのか?

ここで山口さんが重視するのが、「抽象化」というプロセスです。

教養書に書かれている内容は、普通に読めばただの「事実」に終わってしまいます。しかしその事実を「抽象化」すると、仕事に役に立つ知識に変わると言うのです。

 

具体的に見てみましょう。

・事実ルネサンス期において、多くの建築物は行政組織ではなくパトロンがスポンサーになっていた

・抽象化=歴史に残る偉大な作品をつくるには、合議よりも審美眼をもった単独者による意思決定が必要?

・事実=アリ塚には一定程度遊んでいるアリがいないと、緊急事態に対応できずに全滅するリスクが高まる

・抽象化=平常時の業務量に対して処理能力を最適化してしまうと、大きな環境変化が起こったときに対応できず、組織は滅亡してしまう?

・事実ポリネシアメラネシアでは、部族間の「贈与」が義務とされており、贈与の連鎖によって部族間の交換が活発化していた

・抽象化→示唆=近代貨幣経済の基盤となっている「等価交換」以外に、交換を促すもっと自然なやり方=贈与があるのではないか?

どうですか。一見すると何の役にたたなさそうな事実が、明日から仕事に活かせそうな知識に早変わりしました。これが「抽象化」の技術です。

もちろん、ここで抽象化された考えは仮説に過ぎません。しかしそれで構いません。大切なのはこうした「抽象化」の訓練を積み上げることなのです。

この「抽象化」が癖になってくると、いくつかの副次的な効果が生まれます。代表的なのは「議論に強くなる」ということです。なぜなら、抽象化というのは論理そのものだからです。

「議論に強くなる」というのは嬉しいですね。読書を通して身につけられるのは超優秀な人たちが時間をかけて練り上げて作った論理ですから、それを沢山インストールする事で、私たちも少しでもそこに近づけるかもしれません。

 

野球を始める時には正しいスイングのフォームを身につけるように、楽器を始める時に正しい姿勢のフォームを教わるように、読書を始める時には、その方法論を学ぶことからスタートするのが良いでしょう。

そして「読書の案内本」は書店に行けば山ほど見つけられますが、私の知る限りではこの本が一番分かりやすく、読書のフォームを教えてくれます。「これほどお買い得な本はないですよ!」と声を大にして言いたいです。

 

ビジネス書の「これだけ読めばいい」が嬉しい!

そしてこの本をさらに「お買い得」にしているのが、巻末にあるビジネス書の読書案内リストです。

山口さんはメディア業界からコンサルティング・ファームに転職するにあたり、ビジネス書だけで200冊弱(!)の本を読んだと言います。ものすごいバイタリティーです・・・!

しかし「量より質」とも言います。書籍の世界は玉石混交で、中には読んでもあまり効果がない本があるのも、残念ながら事実です。山口さんは経営学を独学しはじめた頃の頃をこう述懐します。

今になってつくづく思うのは「読む量がこの1〜2割だったとしても、9割の効果は得られただろうな」ということです。問題は、「どの1割」が9割の効果を生む本なのかを、読む前に知ることができなかったということです。

そこでこの本の中では、ビジネス書で読むべき本を71冊に絞り、「これだけ読めばいい!」と私たちに提示してくれます。これは嬉しい。

そんな程度の知識で大丈夫なのかって?

大丈夫です。筆者はコンサルティング業界に携わってすでに10年以上になりますが、改めて、これらの基本書籍だけで十分に知的付加価値を創出することができることを痛感しています。その代わり、これらの基本書籍については徹底的に、完璧に読みこなすことが求められます。凡百の書籍を浅く乱読するよりも、こういった「読めば読むほどに絞れる」本を、しっかり精読することが求められるのです。

「◆◆をしよう」とアドバイスしてくれる人は多いですが、「◆◆をしなくていい」とアドバイスしてくれる人は少ないです。その意味で、山口さんのこのアドバイス、そして厳選された71冊の読書リストは利用価値が大きい。私たちがビジネスパーソンとして成長する最短ルートを示してくれる優れものです。

(私自身も、この71冊のリストを、まさに1冊ずつ時間をかけて読んでいる途中です。どれも骨太な本ばかりですが、読めば読むほど、オススメするのも納得の良書ばかりです)