【読書】ゼロ秒思考 ─頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング─(赤羽雄二)

レーニングで大切なのは「続ける」こと

心の整理をし、考えをまとめ、深める方法があったら、誰でも別人のように成長できる。

 

「もっと自分も頭の回転が速くなれば良いのに」。

そう思ったら読むのがこの本です。「A4用紙に、自分の考えを1分以内にメモしていく」というシンプルな作業を続けていく内に、頭の回転が速くなる、というものです。

 

普通の読書であれば、多読乱読することも重要です。ただし、こうした自己啓発の本については、少ない数の本を深掘りしてこなす方が長い目で見て効果があります。

そしてその「少ない数の本」として適しているのが本書です。自己啓発の本は山ほどありますが、本書の魅力はサブタイトルにある通り、そのシンプルさにあります。シンプルであるが故に、すぐに始めることができ、そして何より続けやすいのです。

 

「三日坊主」という言葉があります。レーニングは継続する事にその意味がある。意気込み過ぎてハイレベルな努力をしようとしても、却って挫折してしまうという経験が誰しもあるはずです。

だからこそ本書で書かれている内容を試す価値がある。読めば分かりますが、一つ一つの作業はごくオーソドックスなものばかり。まさに「王道」、考え方の基礎部分を習得するトレーニング方法が紹介されています。

 

ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング

ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング

 

 

 

沈思黙考よりもアウトプットの量が大切

まず、友達と飲みに行く場面を考えてみて下さい。

日頃感じている悩みやストレスを、あけすけに友達へ話してみる。すると、結論は出ないのに、どうにもスッキリしている、という場面はないでしょうか?

つまり大切なのは、「黙って考えずに、アウトプットしてみる」というプロセスなのです。沈思黙考するばかりでは、中々成果は生まれないという事です。

一方、何かを思いついたらすぐ他人に話す人がいる。何でも全部話してしまう。話すと自分でもいろいろ見えてくるし、話しながら新しいことを思いつくことも多い。

ただし、飲みに行くには時間もお金も限られているし、毎回決まった友達に「アウトプットのお手伝い」をしてもらう訳にはいきません。

だからこそ、それを自分一人で実行できる仕組みを整えてあげるのです。具体的には、思いついたことを、その場ですかさず紙に落とし込んでいくという事です。

そこで、お勧めなのは考えをすべて書き留めることだ。考えのステップ、頭に浮かんだことを書き留めると、堂々巡りがほぼなくなる。単純に感情をぶつけるようなことがなくなる。書き留めたものが目の前にあると、自然にもう一歩前に進む。苦労せずに考えが進んで行く。誰でもだ。

紙に書くと言うと、普通の人は「日記」を思い浮かべるとおもいます。

ただし、日記を書く時は、一文一文を言葉を選びながら考えて書くという「推敲」のプロセスが無意識に生まれがちです。そうした推敲のプロセスを排除し、頭の中に浮かんだ言葉をそのまま紙に書き落としていくというのが、この方法のキーポイントです。

書き留める際に言葉を選ぼうとしすぎると、思考が止まってしまう。それよりは、浮かんだ言葉をあまり深く考えず、次々に書き留めていくほうがずっといい。「それができたら苦労しない」と思っている人、苦手意識のある人も多いようだが、実はむずかしくない。

ここでは量が大切な要素となります。まず、書き留める言葉の量を大切にする。すると「量が質に転化する」のです。言葉を選ぶのはその先のプロセスです。

 

紙に書き出した自分の考えを「メタ認知」する

赤羽さんが提唱する「メモ書き」のトレーニングは至極シンプルなものです。

私がお勧めしたいのは、前節でご説明した、A4用紙を横置きにし、1件1ページで、左上にタイトルを書き、1ページに4〜6行のみ、各行20〜30〜字、毎日10ページ、1ページを1分以内に書くやり方だ。

通常のメモよりも、紙を贅沢に使用し、スピード感を持って大量に書いていくという方法です。

少しやってみれば分かりますが、これは中々爽快です。一文ごとに吟味して書いていくよりも、ずっと楽しい。

 

自分の想いを文章として書くメリットの一つとして、自分の心を正しい状態に戻せることがあります。疲れている時、悩んでいる時でも、文章化の作業を通してメンタルの調子を整える事が可能となるのです。

小説家の村上春樹さんも、デビュー作『風の歌を聴け』を執筆していた時のことをこう語っています。

またそこには「自己治癒」的な意味合いもあったのではないかと思います。なぜならあらゆる創作行為には多かれすくなかれ、自らを補正しようという意図が含まれているからです。(略)とくに具体的に意識はしませんでしたが、僕の心もそのとき、そういう自浄作用みたいなものを本能的に求めていたのかもしれません。だからこそごく自然に小説を書きたくなったのでしょう。(村上春樹『職業としての小説家』より)

「治癒」という言葉が面白い。つまり、読者に届けるための文章であるのみならず、自分の心をメンテナンスするための文章でもあったという事です。

実際に、「筆記療法(ライティング・セラピー)」という言葉も存在するくらいです。つまり、書くという動作には、人の心の迷いを取り除く効果があるのです。

ある程度悩みをはき出した後は、気持ちが軽くなって、意外なほどアイデアが出て、考えが深まるようになる。それまで見えなかった全体像がどんどん間近に見えてくる。

全体像が見えやすくなるとは、言いかえれば「全体がどういうものかわかる」「どちらに向かっているかわかる」「全体構成が整理できる」ということだ。

これは心理学で言うところのメタ認知という概念とも関係してくる。作家の佐藤優さんは著書の中でこう語っています。

そのように論理的に感情の意図をほぐしていくと、まずその作業自体で冷静になれます。なんならノートや紙に自分の感情を書き出し、箇条書きにしたり図にしたりして分析してみてもいい。すると、自分を見ているもう一人の自分がいることに気づくでしょう。

これを「メタ認知」というのですが、物事を引いた目線で俯瞰してみる。すると怒っている自分を、もう一人の自分が客観的に見ているという構図が生まれます。この構図ができると、怒りで我を忘れるという神がかり的な状態にはまず陥らずにすむでしょう。

さらにそうやって自分の感情を客観的に分析していくと、実は怒りそのものが自分自身の誤解や思い込み、間違った判断から生まれてきていることに気づきます。一方的に相手が悪いと思っていたのが、実は向こうにも向こうなりの論理があるとか、実は自分も同じような過ちをしているじゃないかとか、そういう気づきがある。(佐藤優『人に強くなる極意』より)

ここで佐藤さんが言うところの、「怒っている自分を、もう一人の自分が客観的に見ているという構図」というのが、まさに赤羽さんが本書の中で伝える「メモ書き」で実現すべきゴールの状態です。誰かが側にいなくても、自分の考えを紙に書き、それを見直すというプロセスを通して、あたかも第三者と話しているかのような冷静なものの見方ができるようになるのです。

 

「問い」を出して答えるトレーニングを繰り返す

メモの最初には、「問い」を出します。たとえば赤羽さんが例に出しているのが、「同僚の山下さんとそりが合わない」というケース。

この時、「その問いが正しいか」ということを考える必要はありません。大切なのは問いの「数」だからです。

腹が立った時、気分が悪い時は、それを全部メモに書き出すとすごく楽になる。相手の名前はストレートに書く。仮に山下さんだとすると、名前をぼかさず「山下さんはどうしていつも私を罵倒するのか」といったメモを書く。

さらに、続けて次のようなタイトルのメモを一気に書き上げる。

  • 山下さんはどういう気持ちで私を罵倒するのか?
  • 彼は誰を罵倒し、誰を罵倒しないのか?
  • 罵倒した後、山下さんはどう感じているのか?
  • 罵倒した翌日、山下さんの態度はどうか?
  • 山下さんはどういう部分に対して反応するのか?
  • 山下さんを怒らせないようにするには、どうすべきか?
  • 山下さんが罵倒するのはどういう時か?
  • 山下さんに罵倒されて、自分はどう感じたか?
  • 自分は何が悪かったのか?
  • 自分にも改善点があったのか?
  • 山下さんのよい点はどういうところか、悪い点は?
  • 山下さんが怒りっぽいのは劣等感があるからではないのか?
  • 山下さんが心を許す友達は誰か?どういう付き合いをしているのか?
  • 山下さんとうまくやっていくには?

これで15ページ、15分だ。始めてわずか15分後には、かなり気持ちがしずまってくる。

「1分で書く」という制約を考えると、一つ一つの問いのサイズは必然的に小さくならざるを得ません。

すると大きなテーマを考えることはできないので、複雑に見える問題を、解きほぐした小さなサイズの「問い」へと分解していく。こうする事で「分析」の思考に近づいていきます。大切なのは、「小さな問いを、たくさん」という事です。

 

この「問い」については、思いついたものをその場でさっと紙に書き、それに対する答えを1分以内に書いていくというスピード感が大切です。コンサルタントの山口周さんは、「問い」を書き留めるプロセスについてこう語っています。

しかし、実はこれがなかなか難しい。というのも、ほとんどの「問い」は白昼夢のように瞬間的に心に浮かんではすぐに消えてしまうからです。多くの人は、心に浮かんだ「問い」をメモしなさい、といわれても「問いなんて浮かんでこない」と思うでしょう。しかし、絶対にそんなことはありません。もしそう思うのであれば、それは「浮かんだ問い」をきちんと捕まえられていないからです。最初は難しいと思うかも知れませんが、繰り返しやっているうちに「問いが浮かんだ瞬間」に対して自分で意識的になれるようになってきます。「心に浮かんだ問い」をきちんと手で捕まえる能力、というのは知的生産の根幹をなす能力になるので繰り返しやって鍛えてください。(山口周『外資系コンサルの知的生産術 』より)

このトレーニングを継続していくと、自然と頭の回転が速くなる。つまり「問いを設定する→答えを出す→新しい問いを見つける」という動作のスピード感が上がっていくのです。まさに筋力トレーニングのように、思考の体力が鍛えられていくのが分かるはずです。

たとえば新入社員であれば、何もかも初めてのことだらけで緊張しっぱないだろうと思う。そういう時は、目につくこと、感じたこと、注意されたこと、今度こそと思うことを毎日20〜30ページでも書くといい。多分10ページには到底収まらないが、それでも1日わずか20〜30分のことだ。それだけで悩みが激減するし、明らかに仕事の覚えがよくなるので、やってみてほしい。

メモを書き始めてほんの3〜4週間でも、「会議での他の人の発言がよく把握できるようになった」「発言が以前よりも注目されるようになった」「取り上げられるようになった」と多くの方からフィードバックいただいた。メモ書きは仕事で成長するための効果的な方法でもあるのだ。

一見複雑に見える事象を、いくつかの小さな「問い」に分割する。そしてそれに答えていく作業を通して、悩み事を解決したり、さらには頭の回転の速さを鍛えたりする事ができるようになる。これが赤羽さんの提唱する「メモ書き」のメリットです。

 

思考は道具に規定される

この時に、A4用紙にペンで考えを書き留めるという「形式」の部分にも意味があります。

考えを整理するのであれば、他にも「日記に書く」「Wordで文章化する」などの方法も存在します。そちらの方法の方が皆さんにとっても馴染みが深いでしょう。

しかし、ぜひ一度、A4用紙の方法を試してみて下さい。なぜならこの方法が、ハイスピードで、制約なく自由に考えを書くという点において圧倒的に優れているからです。詳しく見ていきましょう。

頭の中の発想の広がりやもやもや感は、つらつらと日記に書くよりも、1件1ページでA4用紙に書き出していくほうが整理しやすい。記録というよりは、ダイナミックに頭の外にはき出していく感じ、書き出していく感じだ。

日記帳をお勧めできない理由がさらにある。一つは、A4用紙などに比べてはるかに高価なことだ。二つ目には、閉じられているので、気軽に書き散らすことがしづらいことだ。そして、思いついたことをすぐ書き留めるようにすると、おそらく2週間くらいで1冊使い終えてしまい、日記帳そのものの整理がつかなくなる。どこに何を書いたか到底わからない。

先ほどから、「量が大切。量は質に転化する」という事をお話してきました。日記に特有の「文章を推敲する」というプロセスが、「量を積み重ねる」という部分と反対のベクトルを向いているのです。

ですから今日記を書いているという人がいれば、日記は日記で書き続け、それとは別に、赤羽さんが提唱するメモ書きも試してみるのが良いでしょう。

 

また、Wordを使って思考の整理をしたいという方もいるはずです。確かにWordの方が「素早く書く」という点において、A4用紙に勝ります。

しかし、実はWordには苦手分野がある。図や矢印などが書きづらいのです。

ブラインドタッチのできるパソコンのほうが手書きよりずっと早い、という方がおられる。文字だけなら確かにそういう面もあるが、ちょっとした図を描こうとすると、まったくにっちもさっちもいかなくなってしまう。10秒でかけるポンチ絵に5分も10分もかかってしまい、頭の回転が止まってしまう。

結果として、パソコンの場合は文字で書けることしか考えなくなる点も問題だ。図を描くほうがはるかにてっとり早いことも、すべて文字表現だけで済まそうとすることになる。文字で表現しづらいことは自然に端折ってしまう。スマートフォンタブレットでも同様だ。2×2のフレームワークなどをさっと描くことができないし、そもそも1分で4〜6行、合計で150字を書くことはほぼ不可能だ。

日記であれば、どれも罫線が用意されていると思います。そしてWordの文章も、実は見えない罫線が引かれているので、3行上のアイデアと3行下のアイデアを両向きの矢印(⇔)で結びつけることも容易にできないのです。

メモ書きの中では、必要に応じて図や矢印を書いていく事も推奨されています。そうした文章とは異なるアウトプットを行う上では、やはり白紙のA4用紙が優れているでしょう。

 

この「思考が道具に規定される」という部分については、コンサルタントの山口周さんが著書の中で、「スライド(PowerPoint)を作成する時は紙から始めるべき」とアドバイスをしている箇所が参考になります。

スライドの構造を検討する際にいきなりパワーポイントに向かってしまう人が多いのですが、そうすると発想の枠組みそのものが「パワーポイントで表現しやすいフォーマット」に制限されてしまい、自由度を極端に低めてしまいます。

最適なレイアウト・デザインを考察するのに最も必要なのは自由な発想です。「いま、このメッセージを伝えるのに、どういうビジュアルが最も適しているのか?」ということを考えてみること。そして、思いついたアイデアを紙に書いてみること。模写の効用について説明した際にも触れましたが、この「紙に手で書く」ということが非常に重要です。紙に手で書くことで脳が活き活きと発想を拡げ始めます。いきなりパワーポイントに向かってしまうと、この自由さがなくなってしまうのです。ですからレイアウトのデザインを行う際には、必ず「手で紙に書く」ことを肝に銘じてください。(山口周『外資系コンサルのスライド作成術―図解表現23のテクニック』より)

真っさらなA4用紙を目の前に用意する。そしてその上に、何を書いても良いのです。

そういう自由な環境を用意する事で、自由な発想も生まれてくる。これがWordや日記帳では出せない、赤羽さんの「メモ書き」ならではのメリットです。

 

CPUが優れているとOSも磨かれる

書店に行けば自己啓発本は山ほど見つかります。特に仮説思考やロジカルシンキング系の著書などが多い。ですが、それらに取り組むよりも前に、まずこの本を試してみるのが良いと私は考えています。

 

たとえて言うなら、この「メモ書き」のトレーニングで鍛えるのは、パソコンで言うCPUのようなものに相当します。演算スピードを速めるということ。

そして仮説思考やロジカルシンキングなど「思考の技術」は、言わばOSに当たるでしょう。

 

注意するべきなのは、勉強の順番です。

どれだけ最新のOSをインストールしても、CPUが鍛えられない事には成長には天井が見えてきてしまいます。なぜなら、CPUの演算スピードは、そのまま思考の量・経験の量につながり、それがそのまま成長の量=OSのブラッシュアップにつながるからです。

まずは「メモ書き」を通して、思考をフル回転させてみましょう。思いついた事は、何でも良いです。何枚も、何枚も書いてみる。すると「量が質に転化する」瞬間が出てくるはずです。まずは「メモ書き」を通して、とにかく行動してみましょう。OSを整備するのは、その後からでも間に合います。

(なお、同じ赤羽さんの著作である『速さは全てを解決する』にも、ゼロ秒思考とセットで使える仕事術が詰まっています。ぜひ試してみて下さい)