【読書】ゼロ ─ なにもない自分に小さなイチを足していく(堀江貴文)
最初の一歩が踏み出せない時は
僕自身の話をしよう。学生時代、僕は自分にまったく自信を持てなかった。中学高校では落ちこぼれだったし、女の子にはモテないし、大学に入っても麻雀や競馬に明け暮れる毎日だ。コンプレックスの塊で、自分という人間を信じるべき要素が、どこにも見当たらなかった。
しかし、徐々に自分に自信を持てるようになっていく。
それはひとえに「小さな成功体験」を積み重ねていったおかげである。ヒッチハイクで心の殻を破り、コンピュータ系のアルバイトに没頭する過程で、少しずつ「やるじゃん、オレ!」と自分の価値を実感し、自分のことを好きになっていった。
なにもない「ゼロ」の自分に、小さな「イチ」を積み重ねていったのである。
「何から始めれば良いのかわからない」。
そう思った時に読むのが、この本です。
かつて何も持たない「ゼロ」の状態からスタートして、ITで巨万の富を築き、時代の寵児と言われながらも、東京地検特捜部によって逮捕。そして有罪判決を受け、一気に「ゼロ」へと逆戻り。
そして今、この記事を書いている2018年時点で、堀江貴文さんは再びビジネスの表舞台へと舞い戻って活躍しています。
まさに堀江さんほど、「ゼロ」から「イチ」へと足を踏み出す経験を積み重ねてきた人はいないでしょう。
そんな彼の言葉には、他の誰にも真似のできない説得力に溢れています。
はじめの一歩を、踏み出せない人へ。
仕事でも、プライベートでも、読むと元気が出てくる本です。
- 最初の一歩が踏み出せない時は
- 悩み続けている人は、あえて自分を忙しくする
- 効率化を目指さない・シナジーを目指さない
- 頭の良い人が逆転されるメカニズム
- 村上春樹のメッセージに見出だす、ゼロからイチへの踏み出し方
悩み続けている人は、あえて自分を忙しくする
シンプル・イズ・ベスト。
これは僕の信条とも言える言葉だ。ビジネスの決済からプライベートでの買い物まで、僕は何事も即決即断で決めていく。かなり大きな予算の動くプロジェクトであっても、打ち合わせの現場でポンポンと結論を出していく。ひとつの熟考よりも三つの即決。そんな生き方、働き方が僕を支えてきた。
ドッグイヤーとも称されるIT業界では、意思決定のスピードが大切です。
「即決即断」。ゼロから会社を立ち上げ、IT業界の風雲児として一斉を風靡した名経営者の発言だからこそ、その言葉に説得力が生まれます。
そして堀江さんは「悩む」ことと「考える」ことの2つを区別し、「考える」ことが大切だと語ります。
まず、「悩む」とは、物事を複雑にしていく行為だ。
ああでもない、こうでもないと、ひとり悶々とする。わざわざ問題をややこしくし、袋小路に入り込む。ずるずると時間を引き延ばし、結論を先送りする。それが「悩む」という行為だ。ランチのメニュー選びから人生の岐路まで、人は悩もうと思えばいくらでも悩むことができる。そしてつい、そちらに流されてしまう。
一方の「考える」とは、物事をシンプルにしていく行為である。
複雑に絡み合った糸を解きほぐし、きれいな1本の糸に戻していく。アインシュタインの特殊相対性理論が「E = mc2」というシンプルな関係式に行き着いたように、簡潔な原理原則にまで落とし込んでいく。それが「考える」という行為だ。
「悩む」という行為を積み重ねても、「ゼロ」は「ゼロ」のまま変わらない。
ならば何から始めれば良いのか? 堀江さんは、「悩む時間を、仕事や遊びの時間に転化する」事が大切であると語ります。
そして壁にぶつかるたび、つまずくたび、人の感情はネガティブな方向に流れていく。愚痴をこぼし、社会を恨み、うまくいっている他者を妬むようになる。
・・・・・・でも、そうやってネガティブになっていったところで、ひとつでもいいことがあるだろうか?
僕の結論ははっきりしている。
ネガティブなことを考える人は、ヒマなのだ。
ヒマがあるから、そんなどうでもいいことを考えるのだ。
もし、あなたがポジティブになりたいというのなら、やるべきことはシンプルである。うじうじ悩んでないで、働けばいい。「自分にはできないかもしれない」なんて躊躇しないで、目の前のチャンスに飛びつけばいい。与えられた24時間を、仕事と遊びで埋め尽くせばいいのだ。常に頭を稼働させ、実際の行動に移していく。働きまくって遊びまくり、考えまくる。それだけだ。(略)
あらゆる時間を思考と行動で埋め尽くしていけば、ネガティブな思いが入り込む余地はなくなるのである。
今悩んでいる人は、一度悩むことを止めてみる。
そしてあえて自分を忙しくする。目の前の、いちばん簡単なタスクを積み上げていくことで、いつの間にか悩みが解決している事があるのかもしれません。
効率化を目指さない・シナジーを目指さない
仕事をする上で、事前の計画は欠かせません。
最小のインプットで最大のアウトプットを得られるように、いちばん効率的な設計をする。それによって、限られた時間を有効活用することが可能となります。
しかし堀江さんは、それよりも先に、「まず行動してみよう!」と語ります。
仕事や人生においてラクをすること。それは、掛け算を使うということだ。
5+5で10の成果を出すのではなく、5×5で25の成果を出す。
同じ時間、同じ労力を使いながら、より大きな結果を残していく。僕がメディアに登場するようになって以来、くり返し訴えてきた「掛け算によるショートカット」だ。
しかし、これまでの僕はショートカットの有効性を強調するあまり、その前提にあるはずの「足し算」部分について、ほとんど語ってこなかった。
人は誰しもゼロの状態からスタートする。
そしてゼロの自分にいくら掛け算をしても、出てくる答えはゼロのままだ。
新しく一歩踏み出すという「足し算」。そこで生まれた成果にシナジーを創造していく「掛け算」。堀江さんはこの2つの順番にこそ、成功と失敗を分けるカギがあると語ります。
わかりやすい話をしよう。
まったくモテないオタク男子が、「掛け算によるショートカット」を求めて恋愛テクニック本を読み漁る。最適なデートコースや、おすすめのレストラン、注文するべきカクテルの種類などを徹底的に調べ尽くす。
はたして、これで一挙にモテまくるようになるだろうか?
もちろん無理である。なぜなら、彼に欠けているのは恋愛テクニックではなく、もっと根本的な「自信」だからだ。まずはテクニック以前に、積極的に女の子と会話を交わし、振られる場面では思いっきり振られ、恋愛経験を積み重ねていかなければならない。
書店に行けば、「効率化を目指す」「シナジーを作る」というノウハウ本をたくさん目にします。しかし堀江さんは、それよりも大切な「ゼロにイチを足していく」事の重要性を語ります。
もしあなたが仕事で成功して、人生の成功者になりたいと思っているのなら、仕事術の本を読む前にやるべきことがある。
掛け算を覚える前に、足し算を覚えよう。他者の力を利用する前に、自分の地力を底上げしよう。
頭の良い人が逆転されるメカニズム
中学・高校時代を福岡の男子校で過ごした堀江さんは、東大在学中のエピソードをこう語ります。
僕は、女の子の前で挙動不審になっていた。キョドりまくっていた。目を合わせることもできず、声をかけられても逃げるように立ち去っていた。自分が女の子とまともに話せるような日が来るとは、想像もつかなかった。
じゃあ、対人関係全般を苦手としていたのかというと、それは違う。
たとえば寮生活の中で、あるいは営業や交渉ごとで、あたふたすることはなかった。自分の意見を堂々と主張して、必要に応じて相手の意見を聞き入れることもできた。(略)
いまとなっては、よくわかる。
結局これは、女の子を前にしたときの「自信」の問題なのだ。そして僕には、自信を形成するための「経験」が、圧倒的に不足していたのだ。
もともと能力のある人でも、経験が足りていないがために、周囲の人に負けてしまうケースがあります。
この場合もそうです。堀江さんは中学・高校時代を、男性しかいない環境で過ごしたため、女性と話した経験がありませんでした。それだから、最低限の能力があったにも関わらず、「女性と話せない」というコンプレックスを持ったままになってしまったのです。
そして経験とは、時間が与えてくれるものではない。
だらだらと無駄な時間を過ごしたところで、なんの経験も得られない。
なにかを待つのではなく、自らが小さな勇気を振り絞り、自らの意思で一歩前に踏み出すこと。経験とは、経過した時間ではなく、自らが足を踏み出した歩数によってカウントされていくのである。
はじめの一歩を踏み出して、頭をぶつけながらも、経験を重ねていく。
するとそこから新たな学びを得ることができて、さらに多くの量のタスクをこなす事ができるようになり、「量が質に転化する」流れが生まれます。
ここにこそ、平均的な能力の人が頭の良い人を上回るチャンスが見出せます。
成功者をバッシングするのか、それとも称賛するのか。
これは「嫉妬心」と「向上心」の分かれ道であり、ゼロにイチを足せるかどうかの試金石である。少なくとも僕は、嫉妬にまみれた人生なんて送りたいとは思わない。すべての羨望は、向上心に転換可能なのだ。
頭の良い人、仕事のできる人ほど、不完全な成果を出したくないという思いが強くあります。もともと優秀だからこそ、納得のいくアウトプットを出せると確信できるまで考え続けてしまいます。だからこそ、なかなか一歩を踏み出す事ができずにいる。そんなケースに心当たりはないでしょうか。
逆に荒削りであっても、たくさん仕事をこなしていく人。最初は周囲の人からミスを指摘されていても、彼/彼女は仕事の絶対数を重ねる事で、生きたノウハウを獲得していきます。
ここに、頭の良い人・完璧を求める人が荒削りの人に逆転されていくメカニズムが存在します。自分の仕事の質を担保したいと思うが故に行動に踏み出せず、経験の絶対数で劣後してしまうのです。
だからこそ頭の良い人、けれども今ひとつ行動に踏み出せない人に求められるのが、堀江さんの言う「今あるゼロに、愚直にイチを足していく」ことなのかもしれません。
村上春樹のメッセージに見出だす、ゼロからイチへの踏み出し方
堀江さんのメッセージは、人並み外れた起業家だからできるアドバイスではなく、ごく一般的なものです。それだから、同じ趣旨のメッセージを、他の作家のメッセージの中にも見出だす事ができます。
例えば、作家の村上春樹さん。
村上さんは、読者との対談企画で寄せられた「生きることが辛い」「仕事も恋愛も全部うまくいかなくて、これから先どうしていいのかわからない」という相談に、次のように返しています。
僕は単純な人間なので、わりに単純なことしかいえません。身体を動かしなさい。自分の身体と対話をしなさい。あなたの場合、まずそこから始めるしかありません。身体を動かすことがきらい? 呼吸をすることはきらいですか? それと同じです。あなたにとって身体を動かすことは、呼吸するのと同じくらい必要なことです。運動が嫌いなら、部屋の片付けだって、アイロンがけだって、お風呂の掃除だって、なんだってかまいません。集中して身体を動かしなさい。そうしないといつまでたっても、そこから抜け出せないですよ。がんばって。(村上春樹「村上さんのところ」より)
ここで村上春樹さんが伝えたメッセージを堀江さんの言葉に言い換えるなら、本書のサブタイトルでもある、「なにもない自分に、小さなイチを足していく」という言葉になるでしょう。
悩まない。効率化を目指さない。最初の一歩を踏み出してみる。「何から始めれば良いのかわからない」という人への処方箋が、たくさん詰まった良書です。